大判例

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大阪高等裁判所 昭和61年(行コ)8号 判決 1988年6月24日

控訴人

大豊興業株式会社

右代表者代表取締役

小出勲

控訴人

明利博

控訴人

大森哲

控訴人

田村由之助

控訴人

中西泰公

控訴人

前田稔

控訴人

高橋ビルディング株式会社

右代表者代表取締役

高橋清良

控訴人

昭和商事株式会社

右代表者代表取締役

河島朗

右八名訴訟代理人弁護士

坂和章子

土本育司

中井康之

岡村泰郎

池田直樹

被控訴人

大阪市

右代表者市長

西尾正也

右訴訟代理人弁護士

色川幸太郎

中山晴久

夏住要一郎

主文

一  原判決を取り消す。

二  控訴人大豊興業株式会社の本件訴えを大阪地方裁判所に差戻す。

三  控訴人明利博、同大森哲、同田村由之助、同中西泰久、同前田稔、同高橋ビルディング株式会社、同昭和商事株式会社の本件訴えをいずれも却下する。

四  訴訟費用中前項訴訟人らに関する部分は同控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  本件をいずれも大阪地方裁判所に差し戻す。

二  被控訴人

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は次のとおり付加、訂正、補充するほか、原判決事実摘示及び同添付別紙(一)ないし(四)のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決添付別紙(一)のうち番号2及び8の項をすべて削る。

二  原判決四枚目表七行目末尾に「なお、右事業計画は昭和六二年一月一二日付知事の認可を受け、同年二月一〇日付事業計画変更公告(大阪市告示第八五号の二)により、施行地区等基本的事項ではない部分(施行工区の三分割、施行期間の変更、施設建築物の用途及び面積の一部変更)の変更がなされている。」を加え、同八枚目裏九行目及び同一〇枚目表八行目並びに一二行目の各「不正な」を各「ゆがんだ」と改める。

三  原判決二四枚目表九行目の「はおおむね」を「の流れと法令の定めは別紙(五)記載のとおりでほぼ」と訂正し、同裏一〇行目の「事業計画に関し」から同一一行目の「公告する。」までを削り、同二五枚目表二行目の「る」を「、ついで右設計の概要につき都道府県知事の認可を受けた上で、市町村は右事業計画を決定してこれを公告する」と訂正する。

四  原判決二七枚目表一二行目の「すぎず」の次に「(この点最大判昭和四一年二月二三日民集二〇巻二号二七一頁が参考となる)」を、同二八枚目表六行目の「である」の次に「、そして抗告訴訟の対象たるためには行政庁の行為のうち直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものに限ることは、最一判昭和三九年一〇月二九日民集一八巻八号一八〇九頁、同最一判同三〇年二月二四日民集九巻二号二一七頁による確定判例である」を各付加し、同八行目の「なく、」を「ない。なお、土地収用法における事業認定も、右確定判例の判断基準によれば、抗告訴訟の対照にあたらないが、若し、これにあたるとしても第二種市街地再開発事業において、右事業認定にかわるものとされるのは法五一条一項による設計の概要に対する知事の認可である(法六条二項都市計画法七〇条一項、法施行令一条の六)から、右認可が抗告訴訟の対象となりうる余地があるに過ぎない。」と同一一行目及び同二九枚目裏四行目の「原告斉藤外八名」を各「控訴人大豊興業を除くその余の控訴人ら六名」と各訂正する。

五  原判決三二枚目裏四行目から同三三枚目表末行までを次のとおり訂正する。

「三 控訴人らの本案前の主張(本件事業計画決定の処分性について)

1  抗告訴訟の対象としての行政処分性についての被控訴人指摘の判例は狭きに失し、講学上の法律行為時行政行為に限らず、準法律的行政行為、事実行為を問わず、その行為により国民の権利ないし法律上の利益に直接具体的に影響を及ぼす性質のものであるものはすべて行政事件訴訟法三条二項所定の公権力の行使たる処分にあたるというべきである。

2  右観点によれば本件事業計画決定は処分にあたる、すなわち

(一) 施行者が第二種市街地再開発事業の事業計画を、そのうち設計の概要について知事の認可を受けて決定し、これを公告することにより土地収用法の事業認定の告示とみなされる(法六条一項四項、同施行令一条の六都市計画法七〇条、法一一八条の二)結果、次の効果が生ずる。

① 施行地区の範囲が確定する(法五三条四項、同法七条の一一第一項、同施行規則四条)。

② 影響を受ける土地所有者、賃借権等土地に関する所有権以外の権利者、地上建物の所有権その他の権利者(以下「権利関係者」という)の範囲が確定する(法六条一項四項、同施行令一条の六、都市計画法七一条、土地収用法八条三項)。

③ 土地建物に関する権利が、将来、買収もしくは収用によつて消滅することが確定する。

④ 収用によつて支払われる補償金の額が固定される(開発法六条一項四項、同施行令一条の六、都市計画法七一条、土地収用法七一条)。

⑤ 施行者は、権利関係者の意思にかかわらず、施行地区内の土地に立ち入り調査することができる(法六条一項四項、同施行令一条の六、都市計画法七一条、土地収用法三五条)。

⑥ 土地の形質変更が禁止される(法六条一項四項、同施行令一条の六、都市計画法六五条一項)。

これは、知事の是正措置命令及び刑事罰によつて担保されている(法六条一項、都市計画法八一条九一条)。

⑦ 施行地区内の権利関係者は、公告の日から三〇日以内に施行地区に残るか退出するかの選択をせまられる(法一一八条の二、一項)

⑧ 施行者に先買権が生じ、地区内の権利関係者は予定売買の届出義務を負い、この届出期間中の譲渡の自由を失い、かつ、先買権の行使により売先の自由を失う(法六条一項四項、同施行令一条の六、都市計画法六七条一ないし三項)。

(二) 右のとおり、少くとも①ないし③、⑦は土地収用法上の事業認定の公示とみなされる事業計画決定の公告により発生するものであつて、右事業認定は収用権設定と、その反面地区内権利関係者にその所有土地が近い将来収用等で消滅することがほぼ確実となるという直接的具体的な影響(権利の変動)を生ずる二面性を有し、後者のゆえに処分性を有することとなる。

3  そして、右事業計画の内容は特定性、具体性が十分で、単に事業の基本的枠組みを一般的抽象的に定めるにとどまらず、これを争わせることに事件の成熟性に欠けるところもない(被控訴人指摘の最高裁大法廷判決とは事案が異なる)。さらに、前項(一)の各効果は設計の概要に対する知事の認可に基づくものではなく、事業計画自体の決定に基づくものである。すなわち、

(一) 第二種市街地再開発事業計画で定めるべきことは、別紙(五)注(3)記載のとおり、施行地区、設計の概要、施行期間、資金計画であり、施行地区は縮尺二万五〇〇〇分の一以上の地区位置図と縮尺二五〇〇分の一以上の地区区域図を作成して定めること、さらに後者では地区内の土地地番とその形状を表示することが義務づけられており、爾後収用対象となる土地が一義的に明らかに個別的に特定される。また認可対象となる設計の概要は、前同注記載のとおり、施行者が地区の土地取得後に建築すべき施設建築物の設計図とその技術的説明であつて、これは又確定的具体的であつて、建築物の各床の譲受希望者に対する配置が同希望者の配置未定のために定まらないだけである。よつて、右事業計画内容は一般的抽象的なものではなく具体的特定性に欠けるところはない。

(二) 法規上、土地収用法上の事業認定とみなされるものは、公団施行のときは建設大臣による「事業に対する認可」であり、本件のような市町村施行のときは知事による「設計の概要に対する認可である(法六条四項、同施行令一条の六、都市計画法七〇条一項、法一一八条の二、一項一、二号)。しかしながら、等しく事業認定とみなされながら、両者は様相を異にし、前者は土地収用法における事業認定手続と同様認可庁がイニシヤティブをとつて、自ら事業計画、施行規程等全般を審査し、一般の縦覧に供し、よせられた意見を処理して事業の法定要件の具備を判断して認可し、自ら公告する(法五八条)。これに比し、後者の場合は事業計画及び施行規定については施行者である市町村がイニシヤティブをとつて、自ら立案縦覧に供しよせられた意見を処理し、事業計画のうち、前記内容の設計の概要についてのみ、既存都市計画への適合と建築技術的観点からのみ審査によりなされる知事の認可を受けて、自ら事業計画を決定公告し、その際、右認可の公告は必要的でなく右事業計画の公告のなかで任意的に認可の日時が公告されるに過ぎない(法五一ないし五四条、法施行規則一八条一項)。そして、土地収用法の適用を含め、都市再開発法の体系上、右後者の事業計画決定の公告と前者の事業計画の認可の公告とは同列に扱われている(法一一八条の二、法六条一項四項、同施行令一条の六、都市計画法六九条、七〇条、土地収用法二六条四項)。ところで処分性の検討は収用権の設定を受ける起業者の関係ではなく、起業地内権利関係者との関係で実質的になされるべきものであることに照らせば、市町村施行の第二種市街地再開発事業については、収用地区、権利関係者の範囲を確定し収用権の発動ができる効果は市町村が独自の権限で決定する施行地区を含む事業計画の決定に基づくとみるべく、施行者が土地を取得後新しく建築すべき施設建築物の設計の概要に対する認可(これは上級行政庁の内部的監督行為にあたろう)に基づくとみるべきでない。

(三) 第二種市街地再開発事業においては、事業計画の決定公告があれば、地区内権利関係者は右公告後三〇日以内に地区内残留の決断をせまられ、同日後は収用権の行使が可能(現に被控訴人において精力的に地区内土地建物の任意買収交渉を進めている)であり、その後管理処分計画が遅滞なく定められ(法一一八条の六一項)、買収、収用による土地取得、建物の除却、工事と一連の手続が機械的に進行するのである。したがつて事業計画の違法性を同計画決定公告の段階で争わせる機会を与えないときは、右公告により地区内権利関係者は近い将来における自己の権利の消滅(地区外転出)が確定しているにも拘らず、わざわざ無用な土地の形質変更についての知事の許可手続を経由し、ここで事業計画の違法性を争う徒労を強いられるか、或いは、施行者がなす権利取得裁決をただ待ちあぐねざるをえず、しかも、漸く同裁決を争える段階では周囲の工事の進渉次第では事情判決を受ける危険に甘じなければならないのであつて、地区内権利関係者の利益保護に欠けるところが大きく、事業計画決定公告の段階での事件の成熟性が満たされている。なお、被控訴人は土地収用法上の事業認定と第二種市街地再開発事業上のみなし事実認定の差異をいうが、後者においても事業計画決定の際に収用の必要性の判断がなされており、両者共等しく告示又は公告後は直ちに収用手続を進めうるという効果の具体性において差異がないのであつて、土地収用法二九条の不適用は右効果の具体性に基づき処分性を認める妨げとならない。また、爾後の計画変更の可能性があるかどうかの問題は処分性認定とは別問題である。

四  前項に対する被控訴人の反論

1  前項1は争う。

2  同2も争う。同(一)主張の効果のうち事業計画決定により決定されるものは①と②だけであり、③は事実上の効果にすぎず法的効果でなく、②ないし⑧は前述のとおり法が特に付与した公告に伴う効果(さらに⑧は都市計画法上の効果)にすぎない。

同(二)について。そもそも土地収用法の事業認定は、その告示により、収用手続の開始の可能性があるとしても、地区内権利関係者の権利の消滅は、特定個人に向けられた具体的な処分である収用裁決によつて始めて生ずるのであるから、右事業認定は国民に直接的具体的権利変動を生ぜしめることがないので処分性がない。したがつて、本件事業計画決定についても同様である。

3  同3についても争う。事業認定に代るものは知事のなす設計の概要に対する認可であつて、これを事業計画決定であるとすることは、法六条一項四項、同施行令一条の六、都市計画法七〇条の規定を無視するもので許されない。事業計画において施行地区が具体的に特定されるとしても、直ちに事業計画が処分性をもつことにはならない。すなわち

(一) 事業計画決定公告時においては、地区内権利関係者の権利がそもそも買収、あるいは収用のいずれになるか、その条件、対価なども全く未定であり、その後事業計画自体施行地区の縮少等の変更の可能性があるのであり、しかも右権利関係者が権利を失い、転出する義務を負うのは、将来の買収又は収用によるのであつて、事業計画決定によるのではない。したがつて事業計画自体においては地区権利関係者の権利の得喪という法的効果は未だ生じていないのであるから、比喩的または事実上の効果の表現としてはともかく、「確定」すべき権利変動なく事業計画決定を行政処分というには具体性に欠ける。又、右収用段階で権利取得裁決あるいは明渡裁決を争わしめ、そのなかで事業計画の違法性を争わしめることにより権利保護の目的は十分達成できるのであるから、事業計画を行政処分というには事件の成熟性に欠ける。

(二) 仮に土地収用法における事業認定が処分性を有するとすれば、その理由は土地収用法一八条、二〇条、二九条に照らし、個別的収用の必要性が実質的に判断され、具体的権利変動を及ぼすべき収用裁決申請が間近かであることが明らかであるため成熟性が認められるところに基づくというべきところ、第二種市街地再開発事業においては、都市計画に適合するか否かが審査される(都市計画法六一条)のであり、先づ任意買収に期待するもので、規模も大きく施行期間も長期間を要することが少くないため土地収用法二九条の適用が除外されている(前同法七一条一項)。したがつて、事業計画決定の公告が右事業認定の告示とみなされるとしても、右両者の事業の流れの差異は事業計画決定の処分の成熟性を滅却せしめるに十分である。因みに、本件A―1地区内の被控訴人所有地(地区全体の約46.43パーセント)は殆んど任意買収(しかも本件事業計画決定公告以後の分は地区全体の約6.35パーセント)によるものである。」

第三  証拠<省略>

理由

一当事者間に争いない事実、控訴人らの本件全体事業予定地区内における権利関係、市町村のなす都市再開発法に基づく第二種市街地再開発事業の手続の流れの概要についての判示は、次のとおり付加訂正するほか、原判決理由説示一、及び二2のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決三五枚目裏四行目の「あること、」の次に「本件事業計画に控訴人主張どおりの変更がなされたこと、」を加え、同六行目の「原告斉藤外八名」を「控訴人明利博外六名」と訂正し、同三六枚目裏八行目の「手続」の次に「の流れとその内容は、法規の定め、成立に争いない甲一九号証の一ないし三、同二〇号証、原本の存在及び成立に争いない甲二一号証の一ないし二七(ただし四及び一四は各一ないし八、五及び六は各一ないし九、七及び一〇は各一ないし六、八、一一、一三、一五、一六ないし二〇、二三、二五及び二六は各一及び二、一二、二二及び二四は各一ないし三)本件施行区域現場の写真であることに争いのない検甲一号証、弁論の全趣旨(昭和六〇年一二月一七日付訴訟参加被申立人大阪府知事の意見書)を総合すれば、」を付加する。

2  原判決三七枚目表七行目から同裏一行目までを次のとおり訂正する。

「(三) 市町村は第二種市街地再開発事業を施行しようとするときは、先ず施行規程を定め、事業計画案を作成し、前者には別紙(五)注2記載の事項、すなわち、事業の基本的事項を定め、後者には施行地区、設計の概要、事業施行期間、及び資金計画を定め、右事業計画案を二週間公衆の縦覧に供しこれに対し右事業に関係ある土地及びその土地に定着する物件について権利を有する者から提出された意見書を審査し、その意見を採択すべきものと認めるときは、右計画案に必要な修正を加え、他方、右事業計画案のうち、設計の概要については知事の認可を申請し、その認可をえて(法五一条ないし五三条)右事業計画を決定し、遅滞なく別紙(五)注4記載の事項を公告して事業計画決定の公告をなす。そして、右事業計画で定めるべき事項の詳細は別紙(五)注3記載のとおりであつて、施行区域図では縮尺二五〇〇分の一以上の図面により、区域を明らかに表示するに必要な範囲内において、町又は字の境界並びに土地の地番及び形状を表示すべきものとされ(法施行規則四条三項)、施行期間は法七条の一四に照らし迅速に事業が終結するように定めるべきものとされている。他方、設計の概要は、地区内土地の権利取得、建物取り壊し後に新たに建築される施設建築物、住宅、公共施設の設計図とその説明書から成り、法施行規則七条の技術的基準により設計されるべきものとされ(同規則五条)、これまた、確定的、具体的設計であつて、建築物の各床の譲受希望者の数、氏名が未定であるため定められていないだけである。そして右設計の概要についての知事の認可において、知事は、当該設計の概要が関係法令に違反していないか否か、既存の都市計画に適合しているか否か、前記規則七条の技術的基準に合致しているか否かについて審査判断するだけであり、他の事業計画事項の策定自体に実質的に関与するものではない。

そして都市計画事業については、土地収用法三条各号の一所定の事業とみなされ、同法が適用される(都市計画法六条)ところ、同事業では土地収用法二〇条による事業認定(以下「事業認定」ともいう)は行なわず、公共団体施行の第二種市街地再開発事業(以下市町村施行のものを「市町村施行事業」ともいう)においては、前記設計の概要についての知事等の認可(以下市町村施行につき「知事の認可」ともいう)が、公団等施行の同事業における施行規程及び事業計画(以下「業務計画等」ともいう)に対する知事等の認可と同様に、土地収用法二〇条の事業認定に代わるものとされ、市町村のなす右事業計画決定の公告(法五四条)が、公団等施行の場合の事業計画等に対する知事の認可の公告(法五八条)と同様に、右事業認定の告示(土地収用法二六条)とみなされる(法六条四項、同施行令一条の六、都市計画法七〇条一項、法一一八条の二一項各号)。」

3  原判決三七枚目裏六行目の「なるので」を「なり、前項事業認定の告示とみなされるので、右事業の計画決定の公告の日から事業認定の効力が生じ(土地収用法二六条四項)」と訂正し、同末行の「三六条)」の次に「外、収用又は使用の裁決申請ができ(土地収用法三九条一項)、他方、施行地区内権利関係者も補償金支払請求権を取得する(同法四六条の二一項)」を、同三八枚目表一〇行目末尾に「また、右権利者は売買契約の届出義務を負い、該売買につき施行者が先買権を取得する(都市計画法六七条一ないし三項)。」を、同三八枚目裏四行目の「施行者は、」の次に「譲受け希望の申出をしない者については法一一八条の二、一項の三〇日経過後、同申出をなした者については」を各付加する。

二本件事業計画決定が抗告訴訟の対象になしうるか否かについて

前認定の第二種市街地再開発事業の一連の手続の流れを前提に本件事業計画決定の処分性につき以下検討する。

1  行訴法上取消訴訟が行政庁の行為の公定力を消滅させ、もつて個人の具体的権利、利益の侵害を救済するものとして設けられた法の趣旨に照らせば、行訴法三条二項にいう取消訴訟の対象となる「処分」は、行政庁の行為のうち、それにより個人の権利ないし法律上の利益に対し、直接かつ特定、具体的な影響(公定力による一種の法律上の効果というべきもの)を及ぼす性質の行為をいうものと解すべきである。そして、公定力に基づく右権利侵害は各種の行政庁の行為により生じうるから、行政庁の行為はいわゆる法律行為的行為に限らず、他の行為(いわゆる準法律行為的行為、事実行為)も含まれることは法文からも明らかである。ついで、右影響内容である権利侵害の態様も行為の態様性に応じ多種多様でありうるところ、いかなる程度内容の影響を以つて処分性を画するかはもとより立法政策ないし政策的考慮により解釈すべきことではあるが、抗告訴訟が、行政行為に当然の前提とされる公定力に基づき生じた権利、利益侵害の事後的救済を目的とする制度の趣旨と人権保障の観点に照らせば、右影響の内容態様の点でまず形式的に限定してしまうことは相当でなく広く解するを相当とする(かく解しても、なお、右影響の具体性と事件としての成熟性を要するので法的安定を害することもない)。

したがつて、右影響内容と態様も個人宛の法律行為的行政行為の形成効によるもの、また、私権、地位の最終的得喪の即時変動効に限らず、即時変動に至らない非典型的な効果も含まれるのであつて、このことは本件のような一連の手続を経て完成される計画、開発行政作用(行政過程)における中間的ないし先行的行政行為についても変りなく(むしろ、この場合にあらわれる問題である)、右先行的行為の直接、特定の影響が個人の私権、利益に対する即時最終的変動に至らない効果であつても、具体性があり、これを救済する事件としての成熟性が認められるかぎり、行訴法三条二項の「処分」にあたるというべきである。

右に反する被控訴人の主張は右「処分」が即時最終的権利変動の形成を内容とするいわゆる法律行為的行政行為に限られるとするもののようであるが、右のところより狭きに失しとりがたい(なお、被控訴人指摘の最一判昭和三九年一〇月二九日民集一八巻八号一八〇九頁は旧行政事件特例法一条所定の「行政庁の処分」に関するものであり、また本件と事案も異にし適切でない)。

2  叙上の観点より、本件市町村のなす第二種市街地再開発事業の前示の流れと法の定めをみれば、市町村が行政庁にあたり、本件事業計画決定の公告により事業認定同様の効果が生ずることは以下のとおりである。

(一)  市町村が第二種市街地再開発事業をなすのは、上級庁の一般的監督権に服するものでない団体委任事務(地方自治法二条九項、別表第二(二五の六))としてみなすもので、しかも後記のとおり、法により、自ら第二種市街地再開発事業計画の策定決定につき行政の第一次判断権を主体的に行使することが認められているのであるから、行訴法三条二項の「行政庁」にあたることは明らかである。

(二)  つぎに、事業計画決定の公告により同日から事業認定の効力が生ずるので、前記本件事業の流れのうち、(1)地区の範囲が確定し、ひいて権利関係者の範囲も確定する、(2)同地区内土地につき収用の裁決申請が可能となる(現実の取得時期につき法による前記制限があるが、申請自体は可能)、(3)権利関係者に補償金支払請求権が発生する、以上(1)ないし(3)は少なくとも事業認定自体に基づく効果といわざるをえず、さらに、再開発事業計画決定公告独自の効果として(いずれの行政行為の効力かは後記)(4)施行地区内権利関係者(以下「地区内権利関係者」ともいう)は譲り受け等の希望申出をなすことにより施行地区内にとどまるか、退去するかの選択を強いられる(右申出によつても新たに取得する権利内容は従前のものと一変することも強いられる)こととなる。そして土地収用法によれば、事業認定の告示がなされると、爾後の収用事業の手続、工事は機械的に進められることとされている。以上によれば、事業認定により、直接に、特定の起業地内権利関係者にとつて土地等が収用され、権利が近く消滅することがほぼ確実(一年以内に事業認定の失効(同法二九条一項)がないかぎり)となる影響(法律上の効果)が生ずるものというべきである(この効果は「将来の権利が確定する」と換言して表現できる)。右効果は私権の即時消滅という最終的変動ではないが、いわば収用裁決を条件事実とする停止条件(付款)の設定に似た法律効果の発生であるというべく、しかも事業認定の有する公定力による特定、直接的効果(単なる事実上の効果ではない)で、収用に至る確実性が極めて高いので、具体性の十分な影響(効果)というべきである。

そうだとすると、右に反する被控訴人の主張はとりえず、事業認定は行政処分にあたると解すべきである。

したがつて、その余の控訴人主張の効果につき考えるまでもなく、事業認定の告示の効力が認められる第二種市街地再開発事業計画の決定公告についても、右同様、さらに前(二)(4)の影響も又権利に対する一種の法律効果と解されるので、処分性の根拠となるべき個人の権利、利益に対する直接の影響の発生を肯定できるというべきである(具体性等については後にふれる)。

3  つぎに、前記処分性認定の根拠である、権利に対する影響をもたらしているため行政処分とみるべき行為がいずれかにつきみる。この点につき、被控訴人は法規の定めのとおり設計の概要に対する知事の認可に限られ、本件事業計画ではない旨反論し、控訴人は前者を内部的行政行為に過ぎない旨主張する(以下公共団体施行の第二種再開発事業については市町村施行の場合のみを説示する)。ところで、本件のような一連のいわゆる開発計画行政過程において、先行行為の処分性を決定するには、一法規の定めのみでなく、同過程を律する法規を総合的に検討して決めるべきものである。

(一)  たしかに法施行令一条の六は事業認定に代るものとして知事の認可を読みかえるのみであるが、他方法規自体、事業認定の告示をみなすに別主体である市町村のなす事業計画決定の公告を以つてなし、主体のそごをきたしており、しかも後記の法規定に照らせば右読みかえ自体が事業認定と知事の認可の実体の類似性のゆえになされたものかは極めて疑問であり、むしろ土地収用法二〇条、都市計画法五九条、法五一条の各主体の行政機関としての、及び認可ないし確認の法的性格の、各類似性に基づく技術的要請に基づきなされたものと解されないでもないので、右読みかえ規定は他に行政処分を認めることの妨げとなるものではない(なお、知事の認可は、右事業計画決定の公告を通じて外部に表示されるものとみられないこともないので、単なる行政庁間の内部行為に止まらず、前記みなし法規に基づき行政処分と解する余地もないではない)。

(二)  つぎに権利、利益に対する影響のうち、権利の変動態様は法規の定めにより決まるので、その余の物的、人的、時間的態様を主体的直接的に確定する行政行為がいずれかについてみると、

(1) 第二種市街地再開発事業のうち、市町村施行のときは、施行規程及び施行地区、設計の概要、施行時期資金計画からなる事業計画を独自の判断で策定、縦覧、意見聴取とその処理をなした上最終的に事業計画決定として決定するのは市町村自身であつて、右設計の概要にのみ知事の認可を経るべきこととされ、決定の公告も市町村の名においてなすのである(土地収用法の事業認定手続、公団等施行の右同再開発事業手続では、規程、地区、事業計画全般につき、施行者は立案のみで、その申請により認可庁が、右全般の審査、縦覧、意見の処理等の手続をなした上で、自らの名で認可、その公示、公告をなすのである)。

(2) 前示のとおり、第二種市街地再開発事業では、手続の流れの基本で各種重要申出等の起算点をなす関係で、市町村施行における市町村のなす事業計画決定公告が公団等施行における知事等のなす事業計画等の認可の公告と同列に扱われている(法一一八条の二、一項)が、これは両者の実体に基づくものと解されないではない。そして市町村施行事業においては、知事の認可は、地区内権利関係者の権利消滅自体にかかわりのない同消滅後の新施設建築物の設計図とその説明を技術的観点から審査するもので、公告も任意的(なすときも事業計画決定公告中に年月日を記載してなす)であるが、右消滅すべき権利者と土地の範囲については、市町村が一貫して自ら決定する事業計画のなかで定めるのであり、同計画決定の公告は必要的である。以上のところと認可の法的性質が他者のなす基本的法律行為の効力を補充完成せしめる行政行為とされていることを総合すれば、前2項記載の事業認定とみなされることによる個人の権利、利益に対する影響に直接つながり、原因となるのは、むしろ右影響の要素である人的、物的、時間的範囲を確定する事業計画決定であつて、知事の認可は、事業認定のみなし効を補充する関係で右影響に必要的につながるけれども、同影響に対する関係は間接的補充的であるというべきである。

(3) 事業計画の内容の特定性についてみると、前示のとおり、譲り受け希望者の確定と同希望者に判断資料を提供する必要上、地区の範囲の特定も拡大された縮尺で地番、形状まで必要に応じ特定して一義的に明らかにされ、これにより施行地区に含まれる各土地、及び地上の消滅すべき権利者の範囲も特定される。また設計の概要についても、未定の床の配置を除き、極めて具体的完結的な設計図が作成され、施行期間も迅速な事業終了のために具体的に特定されるべきものとされる。そして、権利の変動内容は、買収、収用による消滅という一義的に明白なもので、換地のように爾後に個別具体化の手続を要しないものである。したがつて第二種市街地再開発事業計画内容は、都市計画事業土地区画整理事業の各計画についていわれるように、事業の基礎的事項につき長期的見直しのもとに一般的、抽象的に決定するもので事業計画段階で地区内の権利に将来の換地等によりどのような変動が生じるのか具体的に確定しようがないのとは著るしく趣を異にするものである。

以上(1)ないし(3)のところを総合すれば、市町村施行事業においては、知事の認可だけではみなされるべき事業認定の対象土地範囲が確定できず、他方市町村のなす事業計画決定もこれだけからは事業認定の効力が当然に生ずるわけでなく、いずれも一方のみでは施行地区内の権利関係者に対する所有権等権利が近く消滅することがほぼ確定するという法律効果をもたらすとはいえず、両者相俟つて始めて右効果の発生原因となるものという外ない。

そして、市町村のなす事業計画の決定は必ずそのうちの設計の概要についての知事の認可を経てなされるものであるから、事業計画決定の公告により生ずる前示の施行地区内権利関係者の権利、利益に対する特定直接的影響をもたらしているもの(同法律効果の法律要件たるもの)は知事の認可のみなし効により補充された事業計画決定であるといわざるをえないのであつて、これが知事の認可につきるものとは到底いいがたい。

4  そこで市町村施行事業における事業計画決定の及ぼす地区内権利関係の権利、利益に対する影響の具体性につきみる。

被控訴人は事業計画決定段階では収用買収の条件が未定であり、計画自体の変更の可能性がある限り、同計画決定による権利、利益の影響は具体性に欠け、また、事業認定に比し成熟性に欠ける程度が高い旨反論する。

(一)  収用等による最終的権利変動をまたずして、右変動が将来高度確実性をもつて生ずることとなつたならば、個人の権利、利益に対する影響が具体的に生じたと解すべきであるから、将来の収用等の条件が未定であることはもともと右具体性具備の妨げとなるものではない。

(二)  たしかに第二種市街地再開発事業においては土地収用法二九条の適用がない(法六条四項、都市計画法七一条)ので、事業計画決定公告から収用等の裁決に至る期間は土地収用法の場合より長く一年をこえることが予想され、また法においても事業計画の変更制度が設けられている(法五六条)から、事業計画の変更の可能性がないわけではない。しかしながら、そもそも事業計画決定自体、その段階においては事業を推進する基本路線として、施行地区全体を不可分一体として統一的一体の完結的計画として、しかも前記のように極めて具体的内容として策定されるのであり、そうであるからこそ、これに基づき地区内権利関係者に去就の選択を迫りうるのである。したがつて、施行地区の大巾な縮小や大巾な設計の概要の変更等右計画の一体性を害し、既選択者の去就の判断の資料の同一性を害し、同人を裏切る結果になりかねない変更が容易にされることは考えがたく(現に本件で争いない変更もわずかな手直しに過ぎず、本件事業計画決定の同一性に変りはない。)、本件においてかかる変更の蓋然性を認めるに足る証拠もない。そして、被控訴人が主張する事業認定と事業計画決定間の差異があり、前記土地収用法二九条の不適用があるとしても、事業計画決定公告後は施行者の土地取得のため手続が機械的に進められ、任意買収に応じなければ収用裁決申請に至る点では事業認定と変りないことは前示のとおりである。したがつて、事業計画決定公告時点における右収用による所有権等の権利消滅という一義的に内容の明白な変動が近く生ずる蓋然性は、ほぼ確実といつてさしつかえない程度に確度の高いものというべきである。そうだとすると、事業計画決定による地区内権利関係者に生ずる収用等により権利が消滅することが確定する影響(効果)は同計画の公告時点において、既に具体性を十分具備しているというべきであり、ただ計画変更の可能性があることのゆえに未だ具体的でないとはいえない(右変更の可能性があるから影響が具体的でないとすると、結局収用裁決等、私権の最終変動の即時効ある個別処分までの先行処分において事業計画の違法を争えなくなり、可及的速やかに個人の権利救済をはかろうとする行訴法三条の趣旨に反することとなる)。

5  ついで事業計画決定に処分性を認めることの事件としての成熟性についてみる。

(一)  事業認定と事業計画決定との間に被控訴人主張の差異があるとしても、施行地区内権利関係者に対し、特定の土地がほぼ確実に終局的には収用により消滅すること自体が事業計画決定公告時点で確定(効果の発生)することに変りなく、さらに事業計画決定には前記の去就の選択を迫られる等の効果が附加し、爾後収用裁決に至るまで手続が機械的に進行することは前示のとおりであるから、右差異のゆえに成熟性の存否にさしたる相異を生じないものというべきである。

(二)  たしかに本件のような一連の手続を経て行われる行政作用について、どの段階で、どの行為に対し訴の提起を認めるべきかは、立法政策的考慮を要するけれども、前示のとおり、それは、行政庁の公権力の行使につきまず公定力が与えられていることと対比して、あくまで人権保障の観点からなすべきものである。

ところで、前にみたとおり、事業計画決定の公告により、施行地区内の権利関係者は、所有権等の権利につき最終的喪失に至らないとしても、ほぼ成就が確実な条件事実を付する付款が設定されたと同様の法律効果を受けるのである。のみならず、法規の定めによれば、爾後地区内権利関係者は最終的権利変動を内容とする個別的個人宛行政処分(形質変更の許否に始まり収用、明渡裁決に至る)を受けるに至るまでの間、それが事業計画決定の直接的効果でなく、法が特に付与した同公告等による附随的効果であるにしても、補償金の額の固定(収用法七一条)、立入調査の受忍(同法三五条)、土地の形質変更禁止(都市計画法六五条一項)去就決定の時間制限(法一一八条の二、一項)、先買権制度による売却先選択の自由喪失(右同法六七条)という一種の法的拘束ないし、権利、利益に対する制限を、事業計画決定公告を原因として事実上受けるに至るのである。

(三) にも拘らず、個人宛最終権利変動を内容とする個別処分を受けるまで、事業計画決定の違法性を争い、その取消を求めえないとすると、これを争う地区内権利関係者は、その機会を作るため、もともと不要であるのに、わざわざ土地の形質変更の不許可処分を受けて、この取消訴訟のなかで前掲問題として同処分が承継する右計画の違法性を争うか、或いは、施行者がイニシヤティブをもつて任意にその時期と相手を選択しうる権利取得裁決の対象に選ばれるのを拱手して待ち、その裁決取消のなかで右同様争うか、の方法しかもたないこととなり、しかも、後者の場合、裁決時期が偶々、事業の違法を敢えて争わない所有者地域の明渡と取り毀し工事が大部分完了までおくれるときは、事情判決を受けるおそれが小さいとはいえない(なお、右いずれの場合にも判決主文で事業計画決定が取り消されるものでなく、行訴法三三条の拘束力に期待するほかない)。

(四) 右にみたように、事業計画決定により近く収用により権利消滅が確実となる法律効果が施行地区内権利関係者に一律に既に生じているにも拘らず、個別的最終権利変動内容の個人宛個別処分がなされるまでの間、同人らを(二)の事実上の不利益状態のなかで、(三)のような本来無用な働きかけをなさしめ、或いは違法な計画が一方的に進められているのに訴える由のない不安定な状態のまま放置すること(しかも右(二)の不利益は右最終個別処分に対する取消訴訟で事業計画の違法がみとめられても十分に回復できるかは疑問がある)は人権保障に欠けるというほかなく、右個別処分を争わせれば権利救済が十分であるとは到底いえず、むしろ、事業計画決定の公告段階で同計画決定自体を争わしめることに事件としての成熟性が十分に具備しているというべきである。よつて、右に反する被控訴人の主張はとりがたい。

6 以上の次第であるから、市町村施行事業における市町村のなす事業計画決定は、その公告時点において施行地区内権利関係者の権利、利益に対し直接かつ特定、具体的な影響を及ぼす性質を有する行政庁の行政行為というべく、他に処分性を認める妨げとなるべき法規その他の事情も見当らないので、行訴法三条二項の取消訴訟の対象たる「行政庁の処分」にあたるというべきである(なお、叙上のところから、被控訴人指摘の最大判昭和四一年二月二二日民集二〇巻二号二七一頁は本件と事案を異にするので適切でない)。

よつて、控訴人らの本件各訴えは抗告訴訟の対象適格の要件をみたし適法である(なお、前記のとおり昭和六二年二月一〇日付計画変更にもかかわらず本件事業計画決定の同一性は変りがない)。

三控訴人らの原告適格について

1 行政処分の取消訴訟を提起できる者は、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによつてこれを回復すべき法律上の利益をもつ者に限られ、右法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保護されている利益であつて、この利益に当たるか否かは当該処分の根拠とされた実体法規が当該利益を一般的、抽象的にではなく、個別的具体的利益として保護する趣旨を含むか否かによつて決せられるべきものである。

本件事業に適用される都市再開発法、都市計画法、土地収用法が法的保護の対象としている個人的利益は専ら施行地内の土地等の所有権者及び関係人の財産権ないし財産的利益である(土地収用法八条三項)と解され、施行地区の隣接地域の住民の生活環境や財産、営業等に関する利益を個別的、具体的に保護することを目的として施行者の権限行使に制約を課している規定は見出しがたい。なお、施行者に対し事業計画を公衆の縦覧に供せしめ(法五三条一項)附近地の住民に説明せしめ(都市計画法六六条)、附近住民に意見書の提出権をみとめている(法五三条二項、一六条二項)規定はあるが、これらの規定は右の意見を計画に反映させる機会を作り、もつて計画内容の適切妥当化をはかるための手続規定にすぎず、直接に附近住民の生活環境上又は財産、営業上の利益を個別、具体的に保護することを目的とする規定でないことは明らかである。

2  これを本件につきみるに、前示一のとおり控訴人大豊興業は本件事業の対象である阿倍野A―1地区内に土地、建物を所有していることは当事者間に争いないことにより認められ、その余の控訴人七名はいずれも本件事業の対象である施行地区A―1外である、予定地A―2地に別紙(一)のとおりの権利を有しているにすぎないことが認められ、右控訴人ら七名がA―1地区内に何らかの財産上の権利を有することの主張立証はない。

そうだとすると、前示のところより、控訴人大豊興業は本件抗告訴訟につき当事者適格及び訴えの利益を有するが、その余の控訴人は本件訴訟につき当事者適格及び訴えの利益を有せず、同人らの本件訴訟は不適法というべきである。また、控訴人大豊興業の本件訴えはその余の適法要件に欠けるところはない。

四以上の次第で、本件事業計画決定が抗告訴訟の対象である行政処分にあたらないとの理由に基づき、控訴人らの本件訴えをいずれも却下した原判決は失当であつて取消しを免れず、本件控訴はいずれも理由がある。そして、控訴人大豊興業を除くその余の控訴人らの本件訴えはいずれも当事者適格及び訴えの利益を欠き結局不適法であるからこれを改めて却下し、控訴人大豊興業の本件訴えはさらに審理をつくすため原審である大阪地方裁判所に差し戻すべきものである。

よつて、民訴法三八六条、三八八条、九五条、九六条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官安達昌彦 裁判官杉本昭一 裁判官三谷博司)

別紙第2種市街地再開発事業の流れ(市町村が施行者の場合)

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(注1) 都市計画(市街地再開発事業に関する)で定める事項

(イ) 市街地再開発事業の種類・名称・施行区域(都市計画法一二条二項)

(ロ) 施行区域の面積(都市計画法施行令七条)

(ハ) 公共施設の配置及び規模並びに建築物及び建築敷地の整備に関する計画(都市再開発法四条)

(ニ) 住宅建設の目標(都市再開発法五条)

(注2) 施行規程の内容(都市再開発法五二条二項)

(イ) 市街地再開発事業の種類及び名称

(ロ) 施行地区(施行地区を工区に分けるときは、施行地区及び工区)にふくまれる地域の名称

(ハ) 市街地再開発事業の範囲

(ニ) 事務所の所在地

(ホ) 費用の分担に関する事項

(ヘ) 市街地再開発事業の施行により施行者が取得する施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等若しくは建築施設の部分の管理処分の方法に関する事項

(ト) 市街地再開発審査会及びその委員に関する事項(委員の報酬及び費用弁償に関する事項を除く。)

(注3) 事業計画で定める事項(都市再開発法七条の一一)

(イ) 施行地区(都市再開発法施行規則四条)

・施行地区位置図(二万五千分の一)

・施行地区区域図(二千五百分の一)…(区域を明らかに表示するに必要な範囲内において都道府県界、市町村界、市町村の区域内の町又は字の境界並びに土地の地番及び形状を表示したもの)

(ロ) 設計の概要(都市再開発法施行規則五条)

・設計説明書

(a)施設建築物の設計の概要

(b)施設建築敷地の設計の概要

(c)公共施設の設計の概要

(d)住宅建設の目標が定められた場合の住宅の概要

・設計図

図面の種類

縮尺

明示すべき事項

施設建築物

各階平面図

五百分の一以上

方位並びに柱、外壁、廊下、階段及び昇降機の位置

二面以上の断面図

五百分の一以上

施設建築物、床及び各階の天井の高さ

施設建築敷地

平面図

五百分の一以上

方位、施設建築物、主要な給水施設、排水施設、電気施設及びガス施設の位置並びに広場、駐車施設、遊び場その他の共同施設、通路及び消防用水利施設の位置

公共施設

平面図

五百分の一以上

方位並びに公共施設の位置及び形状

二面以上の断面図

五百分の一以上

公共施設の構造及び現在の地盤面

(ハ) 事業施行期間

(ニ) 資金計画(都市再開発法施行規則六条)

・資金計画書(収支予算)

(注4) 事業計画決定時の公告事項(都市再開発法五四条一項、都市再開発法施行規則十八条一項)

(イ) 市街地再開発事業の種類及び名称

(ロ) 事業施行期間

(ハ) 施行地区(施行地区を工区に分けるときは、施行地区及び工区)

(ニ) 施行者の名称

(ホ) 事業所の所在地

(ヘ) 事業計画の決定の年月日又は当該事業計画において定めた設計の概要についての認可の年月日

(ト) 譲受け希望の申出若しくは賃借り希望の申出をすることができる期限

(注5) 管理処分計画で定める事項(都市再開発法一一八条の七第一項)

管理処分計画は、事業計画決定の公告後、譲受け希望の申出を行つた者に対しては与えられることとなる建築施設の部分を定め、賃借り希望の申出を行つた者に対しては借家権を設定することとなる施設建築物の一部を定めるものである。

(イ) 配置設計

(ロ) 譲受け希望の申出をした者で建築施設の部分を譲り受けることができるものの氏名又は名称及び住所

(ハ) (ロ)に掲げる者が施行地区内に有する宅地、借地権又は建築物及びその見積額並びにその者がその対償に代えて譲り受けることとなる建築施設の部分の明細及びその価額の概算額

(ニ) 賃借り希望の申出をした者で施設建築物の一部を賃借りすることができるものの氏名

(ホ) (ニ)に掲げる者が賃借りすることとなる施設建築物の一部

(ヘ) 施行者が施設建築物の一部を賃貸しする場合における標準家賃の概算額及び家賃以外の借家条件の概要

(ト) (ハ)の建築施設の部分以外の建築施設の部分の明細及びその管理処分の方法

(チ) 新たな公共施設の用に供する土地の帰属に関する事項

(リ) (ハ)の見積額並びに(ハ)及び(ヘ)の概算額の算定の基準日並びに工事完了の予定時期

(ヌ) 都市再開発法一一八条の一〇において準用する都市再開発法七九条三項の規定が適用されることとなる者の氏名又は名称及び住所並びにこれらの者が施行地区内に有する住宅、借地権若しくは建築物(都市再開発法施行規則三七条の四)

(注6) 管理処分計画の認可時の公告事項(都市再開発法施行規則三七条の六第一項)

(イ) 第二種市街地再開発事業の名称

(ロ) 施行者の名称

(ハ) 事務所の所在地

(ニ) 管理処分計画に係る施行地区又は工区に含まれる地域の名称

(ホ) 管理処分計画の認可を受けた年月日

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